第10章:決勝戦の幕開けと第二局まで
一局目の直前:お守りの贈り物
ラグナ共和国へ向かう飛行機の中で、川上和也は真星へ、少し気まずそうに小さな袋を差し出した。
「これは雪乃の手作りだよ。でも渡せなかったみたいだから、こっそり持ってきたんだ」
真星は一瞬驚いたが、袋を受け取り、そっと中を覗いた。そこには小さなビーズの黒と白の石がついた手作りのお守りが入っていた。
川上は少し茶化すように笑ったが、真星は真剣な表情で頷いた。
「ありがとう」
そう言って、お守りをポケットにしまい、飛行機の小さな窓の外を眺めた。
第一局:序盤の静かな攻防
ラグナ杯決勝戦の第一局がついに始まった。会場は王宮内の「囲碁ホール」。特注の碁盤と、南国の明るい雰囲気の中、観客と解説者たちの期待を高めていた。
にぎって、真星が黒番、マークが白番となり、試合が開始される。会場は一瞬にして静寂に包まれた。
序盤は互いに持ち味を発揮し、静かだが緊張感のある展開となった。
大盤解説:ヤマト国の解説会
大盤解説の席では、川上と杉原が、ヤマト国からオンラインで送られてくる試合の分析を、ラグナの囲碁ファンに伝えた。
「ヤマト国からの分析も交えて皆さんへお伝えします!藤倉七段、序盤から地をかせぐ作戦ですね。相手の動きをじっくり見ています。」
川上がコメントすると、杉原も頷いた。
「はい。対するマーク選手は盤全体を使った広い布石で、自分の得意な形に持ち込もうとしています。」
解説を聞きながら、観客は大モニターに映し出される両対局者の対局風景も楽しんでいた。
第一局の決着
中盤で真星は大胆な振り替わりを選び、その後の攻防は熾烈を極めた。終盤は難解なヨセが続いたが、真星がわずかな差を守り切り、第一局を制した。
試合後、真星は深々と盤面に一礼した。
「素晴らしい逆転劇でした!藤倉七段、大胆な決断が光る一局でしたね。」
川上が解説を締めくくると、観客席からも拍手が巻き起こった。
第二局:マークの反撃
翌日行われた第二局では、マークが黒番を取り、序盤から主導権を握る展開となった。彼の布石は独特で、真星は序盤から苦しい形に追い込まれた。
大盤解説:再び川上と杉原
「ここで藤倉七段、どう出るかですね。AI判定ではマーク選手75%、藤倉選手25%です。少し形勢不利ですね…」
川上の指摘に、杉原が続ける。
「そうですね。マーク選手は序盤から積極的でした。藤倉七段が中盤で巻き返せるかどうかが鍵です。」
その後もマークの優位は揺るがなかった。
「この一局は、マーク選手の名局となるでしょう。さすがランキング1位です」
川上も相手を称えた。
「藤倉七段が気持ちを切り替えて、明日を迎えて欲しいです」
杉原は思いを込めて言った。
第二局の敗北とお守り
試合終了後、真星はホテルの部屋に早々に1人で戻った。ポケットから雪乃のお守りを取り出す。
真星は緊張がほぐれるのを感じて、深呼吸をした。