第9章:決勝戦までの1か月

準決勝を制し、ついに決勝へ進む棋士が決定した。ヤマト国の藤倉真星とセリア国のマーク・エリオット。彼らはそれぞれの国に帰国した。三番勝負は1か月後にラグナ共和国で行われる。

藤倉真星の帰国後

ヤマト国に戻った藤倉真星は、全国から注目を浴びていた。「碁石海岸」の地元からも招待の声が寄せられる中、師匠の岡田九段は報道陣にこう伝えた。

「決戦が終わるまでは、真星への取材は控えてください。彼には今、静かな環境が必要です。」

真星は道場での生活に戻り、師匠や仲間たちと共にマーク・エリオットの棋風を徹底的に研究していた。

「真星、マークの序盤から中盤は緻密だ。序盤から気を抜くな。」
「はい、師匠。」
真星の活躍する姿は、後輩たちの憧れの的だった。

一方、真星の祖父母が暮らす「碁石海岸」は観光名所として賑わいを見せていた。テレビで祖父のインタビューが流れると、真星の父が電話をかけた。

「父さんがテレビに出てきて、びっくりしました!」


真星も電話を代わり、祖父母と久しぶりに話した。
「おじいちゃんカッコ良かったよ!落ち着いたら遊びに行くから待ってて!」
「声が聞けて嬉しいよ。体調に気をつけて頑張れ!」
祖父の嬉しそうな声が電話越しに響き、真星は心の中で決意を新たにした。

川上雪乃の決意

一方、川上和也の妹、川上雪乃は複雑な心情を抱えていた。幼少期から共に同じ道場で囲碁を学んできたが、雪乃はプロを諦め、大学へ進学した。今は子供教室のお手伝いの時に、真星の顔を見るのが唯一の接点である。
真星に会いたくて、雪乃は道場へ遊びに行こうか迷っていた。そんな時に、岡田九段の妻で棋士の静子二段から電話があった。
「雪乃ちゃん、今日の夕方から、道場に来れるかしら?囲碁を始めたい方が来るのよ」
「はい、お手伝いに行きます!」
雪乃は張り切って答えた。


道場は囲碁サロンも兼ねていて、土日は子供教室もやっている。
真星の活躍で、囲碁を始めたいと、問い合わせが増えていた。
「静子先生、お団子を買ってきました」
雪乃は岡田九段の好物のお団子を差し出した。
「雪乃ちゃん、ありがとう。皆、おやつにしましょう」
静子が研究会の皆へ声をかけた。
「ちょうど甘いものが食べたかったんだ」
岡田九段は嬉しそうに出てきた。
しかし真星と若手棋士たちは、研究に夢中で碁盤の前から離れなかった。
真剣に碁盤に向かっている真星の横顔を眺めながら、雪乃は今までにない寂しさを覚えた。
「真星が優勝したら、リリア王女とデート…。本当に遠い存在になっちゃった。この三番勝負が終わったら気持ちを伝えよう。片想いを終わらせるために。」
雪乃の目には決意が宿り、これまでの葛藤を乗り越えた強さが感じられた。

マーク・エリオットの帰国後

一方、セリア国に戻ったマーク・エリオットも多忙な日々を過ごしていた。国内メディアからの取材が続き、プレッシャーが増していく中でも、彼は冷静さを保っていた。

「この試合はセリアの誇りを背負うものだ。全力で挑んでほしい。」
囲碁協会理事長の言葉に、マークは短く答えた。
「ありがとうございます。自分の力を信じて戦います。」

彼は練習やAIを使った対局分析を続け、決戦に向けて万全の準備を進めていた。

リリア王女の準備

ラグナ共和国では、リリア王女も決勝戦に向けた準備を進めていた。ラグナ杯がもたらす観光業の復興を願い、彼女は王宮で王様と計画を練っていた。

「リリア、決勝戦の日には世界中から多くの人々が訪れるだろう。この機会を活かして、ラグナの魅力を広めるんだ。」
王様は彼女に微笑みながら語りかける。

「もちろんです、お父様。でも、優勝者との特別な時間は少し緊張しますね。」
リリアは苦笑しながら答えた。

「リリア、それはお前がどう感じるか次第だ。ただ、この大会が終わった時、お前が囲碁の持つ魅力や人々を繋ぐ力を感じられたなら、それが何よりの成果だよ。」
王様の言葉に、リリアは頷き、ラグナ杯をより特別な大会にするための意気込みを新たにした。

SNSでの盛り上がり

決勝戦までの1か月、SNSでは藤倉とマークの対決への期待がますます高まっていた。
「ラグナ杯、いよいよクライマックス!」
「王女とのデートコースはどこになる?」
ラグナ共和国の航空券や宿泊施設は予約で埋まり、観光業も賑わいを見せていた。

「囲碁が世界を繋ぐ架け橋となる」
ラグナ杯はクライマックスへと向かっていく。